指に入る風はや寒し今日の菊 嵐雪
今朝は今年はじめての秋の涼しさ。今日九月九日は重陽の節句(菊の節句)・重陽節。
中国ではこの日、菊を賞で、茱萸(日本では「春黄金(はるこがね)」、秋にはグミによく似た赤い実を付けることから「秋茜(あきあかね)」とよぶ)を袋に入れて(あるいは髪に茱萸の実を挿して)丘や山に登ったり、菊の香りを移した菊酒を飲んだりして邪気を払い長命を願うという風習があった。元は晩秋の頃の行事という。
日本では「九月十五日敬老の日」の制定にはこの意味合いが生かされているともいう。
俳句の季語は、重陽・重九・菊の節句・菊の日・今日の菊・菊酒・重陽の宴・菊の宴。
重陽の名作、三首をあげる。
九月九日憶山東兄弟 王維
獨在異鄕爲異客,
毎逢佳節倍思親。
遙知兄弟登高處,
徧插茱萸少一人。
九月九日山東の兄弟を憶ふ
独り異郷に在りて異客と為り、
佳節に逢ふ毎(ごと)に倍(ますま)す親(しん)を思ふ。
遥かに知る兄弟の高きに登る処、
遍(あまね)く茱萸(しゅゆ)を挿(さ)して一人少なきを。
登高 杜甫
風急天高猿嘯哀,
渚淸沙白鳥飛廻。
無邊落木蕭蕭下,
不盡長江滾滾來。
萬里悲秋常作客,
百年多病獨登臺。
艱難苦恨繁霜鬢,
潦倒新停濁酒杯。
高きに登る
風急に天高くして猿嘯(な)くこと哀し、
渚(なぎさ)清く沙(すな)白うして鳥飛び廻る。
無辺の落木蕭蕭(せうせう)と下(くだ)り、
不尽の長江滾滾(こんこん)と来(きた)る。
万里悲秋常に客(かく)と作(な)り、
百年多病独り台に登る。
艱難苦(はなは)だ恨む繁霜の鬢、
潦倒(れうたう)新たに停(とど)む濁酒の杯。
九日齊山登高 杜牧
江涵秋影雁初飛,
與客攜壺上翠微。
塵世難逢開口笑,
菊花須插滿頭歸。
但將酩酊酬佳節,
不用登臨恨落暉。
古往今來只如此,
牛山何必獨沾衣。
九日斉山に登高す
江は秋影を涵(ひた)して雁初めて飛び、
客と壼を携えて翠微(すいび)に上(のぼ)る。
塵世口を開いて笑ふに逢い難く、
菊花須(すべか)らく満頭に挿して帰るべし。
但だ酩酊を将(もっ)て佳節に酬(むく)い、
用いざれ登臨して落暉を怨(うら)むを。
古往今来只だ此(かく)の如し、
牛山何ぞ必ずしも独り衣を沾(うるお)さん。
(二〇〇八・九・九)